「最近、親の様子が少しおかしい」
「同じ話を何度もするようになった」
「今までできていたことが、できなくなっている」
親の変化に気づいても、すぐに「認知症かもしれない」と受け入れられるとは限りません。
今日はたまたま調子が悪かっただけ。
年齢を重ねれば、誰でも少しくらい忘れることはある。
明日になったら、いつもの親に戻っているかもしれない。
そう思いたくなるのは、決しておかしなことではありません。
長いあいだ自分を育て、支えてくれた親です。昨日までと同じように話している姿を目の前にすれば、「認知症」という言葉と結びつけることに抵抗を感じるのは自然なことだと思います。
この記事では、親が認知症かもしれないと感じながらも、現実を受け入れられずにいるご家族へ、気持ちの整理の仕方や、今できることをお伝えします。
親が認知症かもしれないと認めるのは簡単ではない
親の認知症を受け入れられないからといって、家族が冷たいわけでも、現実から逃げているわけでもありません。
親は、子どもにとって「いつまでも親」です。
何でも知っていて、家族を守り、困ったときには頼ることのできた存在が、少しずつ変わっていくかもしれない。その現実を、すぐに受け止めるのは難しいものです。
認知症という言葉を口にした瞬間、それまでの日常が変わってしまうように感じることもあります。
「認知症だと決まったら、もう元には戻れないのでは」
「これから介護が始まるのでは」
「仕事や自分の生活はどうなるのだろう」
親のことだけでなく、これから起こるかもしれない生活の変化まで一度に考えてしまい、不安が大きくなることもあるでしょう。
そのため、心のどこかで「まだ大丈夫」と思いたくなるのは、無理もないことです。
「明日になったら元通りかもしれない」と思ってしまう

親の様子が毎日同じとは限りません。
昨日は話がかみ合わなかったのに、今日は以前と変わらず会話ができることもあります。
忘れていたことを後から思い出したり、慣れた家事なら問題なくできたりすることもあるでしょう。
そんな姿を見ると、
「やっぱり認知症ではなかったのかもしれない」
「もう少し様子を見てもよいのでは」
と思うことがあります。
家族が迷ってしまうのは、親のすべてが急に変わるわけではないからです。
以前と変わらない部分と、少し心配な部分が同時に見えるため、どちらを信じればよいのか分からなくなります。
調子のよい日があることは、家族にとってうれしいことです。ただし、調子のよい日があるからといって、心配な変化をすべて気のせいにする必要もありません。
すぐに結論を出さなくてもよいので、「少し気になることが続いている」という事実だけは、いったん残しておくことが大切です。
認知症を受け入れることは、親を諦めることではない
「認知症かもしれない」と認めることに、抵抗を感じる方もいます。
認めてしまうと、それまでの親ではなくなってしまうように感じるからかもしれません。
しかし、認知症の可能性を考えることは、親の人生や気持ちを諦めることではありません。
できなくなったことがあっても、できることや好きなこと、長年大切にしてきたことまで、すべてなくなるわけではありません。
親が何を心地よいと感じるのか。
どのような声かけなら安心できるのか。
どんな生活を続けたいと思っているのか。
それを知り、これからの暮らしを一緒に考えるために、変化に気づくことには意味があります。
「認知症になった人」として見るのではなく、これまでと同じ一人の人として向き合うことが大切です。
まだ受け入れられなくても、できることはある
気持ちが追いつかないまま、無理に「受け入れなければ」と思う必要はありません。
ただし、認知症かどうかを家族だけで判断せず、困っていることを整理しておくと、その後の相談につながりやすくなります。
気になった出来事を記録しておく
親の変化が気になったときは、簡単に記録を残しておきましょう。
例えば、次のような内容です。
- 同じことを何度も尋ねた
- 約束したことを忘れていた
- 薬を飲んだか分からなくなった
- 財布や通帳を何度も探していた
- 慣れた道で迷った
- 料理や支払いの手順が分からなくなった
- 以前より怒りっぽくなった
- 身だしなみや部屋の状態が変わった
- 電話や訪問販売の契約内容を理解できていなかった
「9月10日の夕方、薬を飲んだことを忘れてもう一度飲もうとした」のように、日付と具体的な状況を残しておくと、医師や相談員にも伝えやすくなります。
親の間違いを責めるためではなく、安全を守り、変化を客観的に確認するための記録です。
生活上の危険だけ先に確認する
診断を受ける前でも、事故につながりそうなことは確認できます。
- 火の消し忘れがないか
- 薬を重ねて飲んでいないか
- 車の運転に不安がないか
- 知らない相手へお金を渡していないか
- 食事や水分が取れているか
- 一人で外出して帰れなくなることがないか
- 転倒やけがが増えていないか
すべてを家族が管理しようとすると、親も監視されているように感じてしまいます。
今すぐ危険につながりそうなことから、できる範囲で確認していくとよいでしょう。
家族の中で情報を共有する
一人の家族だけが親の変化に気づき、ほかの家族は「考えすぎでは」と受け止めることもあります。
ときどき会う家族の前では、親が普段どおりに振る舞える場合もあるため、毎日接している人との受け止め方に差が生まれることがあります。
そのようなときは、「認知症に違いない」と結論を求めるのではなく、実際に起きた出来事を共有してみましょう。
「最近おかしい」ではなく、「今月、同じ公共料金を二度支払おうとした」など、具体的に伝えると状況を共有しやすくなります。
物忘れがあっても認知症とは限らない
物忘れや判断力の低下が見られても、必ず認知症とは限りません。
体調不良、睡眠不足、脱水、薬の影響、気分の落ち込み、聴力の低下などによって、認知症に似た様子が見られることがあります。
家族だけで「年齢のせい」「認知症に違いない」と決めつけるのではなく、医療機関へ相談して原因を確認することが大切です。
かかりつけ医がいる場合は、まず普段の体調を知っている医師へ相談できます。
必要に応じて、もの忘れ外来、認知症外来、脳神経内科、精神科、老年内科などにつないでもらえることがあります。
何科を受診すればよいか迷う場合は、次の記事でも詳しく紹介しています。
【関連記事】認知症を疑ったら何科を受診すればいい?病院に行くタイミング
親に受診を勧めにくいときはどうする?
家族が受診を勧めても、本人が嫌がることがあります。
「私は認知症ではない」
「病院へ行く必要はない」
「年寄り扱いしないでほしい」
と言われることもあるでしょう。
本人に自覚がない場合もありますが、「できない人と思われたくない」「家族に迷惑をかけたくない」という不安から、強く否定している可能性もあります。
受診を勧めるときは、最初から認知症と決めつけず、
「最近、少し疲れているように見えるから、体調を診てもらわない?」
「薬のこともあるから、一度かかりつけの先生に相談してみようか」
など、健康全体を確認する形で話す方法があります。
ただし、本人をだまして連れて行くのではなく、不安な気持ちを聞きながら進めることが大切です。
家族から言うと関係が悪くなりそうな場合は、かかりつけ医や地域包括支援センターへ、家族だけで先に相談することもできます。
地域包括支援センターには家族だけでも相談できる
「まだ認知症と診断されたわけではないのに、相談してよいのだろうか」と迷うかもしれません。
地域包括支援センターでは、認知症と診断される前の段階でも、高齢者の生活や介護について相談できます。
本人が相談を嫌がっている場合や、家族がどう声をかければよいか分からない場合も、まず家族だけで相談できます。
地域によっては、認知症地域支援推進員や認知症初期集中支援チームなどにつないでもらえることもあります。
地域包括支援センターが分からない場合は、市区町村の高齢者福祉や介護保険の担当窓口へ問い合わせると案内してもらえます。
相談したからといって、すぐに介護サービスの利用や施設への入居が決まるわけではありません。
今の状況を整理する場所として、早めに相談しておくと安心です。
急に様子が変わった場合は「認知症だろう」と様子を見ない
認知症による変化は、一般に少しずつ現れることが多いとされています。
それまで普通に過ごしていた人が、急に会話できなくなった、意識がもうろうとしている、突然ひどく混乱したという場合は、認知症以外の病気が隠れている可能性があります。
特に、次のような症状が突然現れた場合は注意が必要です。
- 顔の片側がゆがんでいる
- 片方の手足に力が入らない
- ろれつが回らない
- 言葉が出ない、話を理解できない
- 強い頭痛がある
- 意識がもうろうとしている
- 呼びかけへの反応が悪い
脳卒中など緊急性の高い病気の可能性もあります。顔のゆがみや片方の手足のまひ、ろれつが回らないなどの症状が突然現れた場合は、迷わず119番へ連絡しましょう。
発熱や脱水、感染症、薬の影響などによって急に混乱することもあります。普段との違いが大きい場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。
家族にも気持ちを整理する時間が必要
親の認知症を疑い始めたとき、家族の気持ちは大きく揺れます。
悲しい、怖い、認めたくない。
以前と同じことができない親に、つい腹を立ててしまう。
優しくしたいのに、同じ質問を繰り返されると強い言い方をしてしまう。
そのあとで、自分を責めてしまうこともあるでしょう。
しかし、家族にも生活があり、仕事があり、体調があります。
いつでも穏やかに対応できるわけではありません。
まずは「受け入れられない自分はだめだ」と責めないことが大切です。
認知症を一度に理解して、すぐに気持ちを切り替える必要はありません。
家族自身も、迷ったり、期待したり、落ち込んだりしながら、少しずつ新しい関わり方を探していきます。
一人で抱えることがつらい場合は、家族会や認知症カフェなどで、同じ立場の人の話を聞く方法もあります。
今すぐ「受け入れる」より、親子だけで抱えないことが大切
親が認知症かもしれないと感じたとき、すぐに現実を受け入れられなくてもかまいません。
ただ、家族だけで長く抱え続けていると、事故や金銭トラブルなどの心配が増え、介護する人も疲れてしまいます。
受け入れることと、相談することは別です。
まだ認知症だと思いたくないままでも、
- 気になった出来事を記録する
- かかりつけ医へ相談する
- 地域包括支援センターへ家族だけで相談する
- 兄弟姉妹などと情報を共有する
- 火や薬、お金などの安全を確認する
といった準備は始められます。
何もかも一度に決める必要はありません。
今日できることを一つだけ始めることが、親の生活と家族自身を守ることにつながります。
よくある質問
物忘れが増えたら、すぐに認知症を疑うべきですか?
物忘れだけで認知症と判断することはできません。
ただし、同じ質問を何度も繰り返す、慣れた作業ができなくなる、金銭管理に失敗するなど、日常生活への影響が続いている場合は、かかりつけ医などへ相談すると安心です。
親が普通に話せる日もあります。それでも相談したほうがよいですか?
普通に話せる日があっても、心配な出来事が繰り返されている場合は相談できます。
受診時には「今日は大丈夫そうだった」だけでなく、これまでに起きた変化を記録して伝えると、状況を理解してもらいやすくなります。
本人が受診を拒否していても相談できますか?
本人が受診を嫌がっている場合は、家族だけでかかりつけ医や地域包括支援センターへ相談する方法があります。
本人への伝え方や、利用できる地域の支援について助言を受けられることがあります。
兄弟が親の変化を認めてくれません
親と接する頻度によって、見えている様子が異なることがあります。
「認知症かどうか」を争うよりも、いつ、どのような出来事があったのかを具体的に共有してみましょう。必要であれば、家族で一緒に医師や地域包括支援センターへ相談する方法もあります。
まとめ
親が認知症かもしれないと気づいても、その現実をすぐに受け入れられるとは限りません。
「今日はたまたま調子が悪いだけ」
「明日になったら、いつもの親に戻るかもしれない」
そう思うのは、これまでの親を大切に思っているからこそでもあります。
気持ちが追いつかない自分を、責める必要はありません。
ただし、認知症かどうかを家族だけで判断したり、心配な変化を長く抱え込んだりする必要もありません。
まだ受け入れられないままでも、記録を残すことや、家族だけで専門機関へ相談することはできます。
親のためだけでなく、介護する家族の生活を守るためにも、一人で抱え込まず、できることから少しずつ始めてみてはいかがでしょうか。


