
「日本の介護制度は恵まれている」と言われることがありますが、アメリカでは高齢になった親の介護を、誰がどのように支えているのでしょうか。
アメリカにも高齢者向けの公的制度はあります。しかし、日本の介護保険のように、一定の条件を満たせば全国共通の仕組みで介護サービスを利用できる制度ではありません。
介護費用を自分で負担する人、家族が介護を担う人、民間の介護保険を利用する人、低所得者向けのMedicaid(メディケイド)を利用する人など、その方法はさまざまです。
この記事では、アメリカにおける親の介護の仕組みや費用、家族への支援について、日本との違いを交えながらわかりやすく解説します。
アメリカの親の介護|日本と異なる5つの特徴
1.日本のような全国共通の介護保険制度はない
アメリカには、日本の介護保険に相当する全国共通の公的制度はありません。
高齢者向けの公的医療保険としてMedicare(メディケア)がありますが、主な対象は診察や治療、入院、一定の条件を満たした訪問看護や短期間のリハビリなどです。
食事、入浴、着替え、排せつといった日常生活の介助を長期間受ける費用は、原則としてMedicareの対象になりません。
そのため、長期的な介護が必要になった場合は、主に次の方法を組み合わせて対応します。
- 本人の収入や預貯金から支払う
- 家族が無償で介護する
- 民間の長期介護保険を利用する
- 所得や資産などの条件を満たしてMedicaidを利用する
- 地域の支援団体や高齢者向けサービスを利用する
「アメリカには公的支援がまったくない」というわけではありませんが、日本よりも本人や家族の経済状況に左右されやすい仕組みといえます。
2.介護サービスの費用が非常に高い
アメリカで介護サービスを利用する場合、大きな負担となるのが費用です。
CareScoutが公表した2025年の全米中央値では、主な介護サービスの費用は次のようになっています。
| サービス | 全米の費用中央値 |
|---|---|
| 自宅での非医療的な介助・生活支援 | 1時間35ドル |
| アシステッドリビング | 月額6,200ドル |
| ナーシングホーム・相部屋 | 月額約9,581ドル |
| ナーシングホーム・個室 | 月額約10,798ドル |
出典:CareScout「Cost of Care Survey」(2025年の全米中央値)。実際の費用は州や地域、必要な介助の内容によって異なります。
※費用は地域、介護の内容、利用時間、部屋の種類などによって大きく異なります。
費用の規模をイメージするため、仮に1ドル=150円で換算すると、アシステッドリビングは月額約93万円、ナーシングホームの個室は月額約162万円です。実際の円換算額は為替相場によって変わります。
なお、アシステッドリビングは、食事や生活支援、必要に応じた介助を受けながら暮らす高齢者向け住宅です。ナーシングホームは、より継続的な看護や介護が必要な人を対象としています。
このように、長期間にわたって介護サービスを利用すると、本人の預貯金や家族の生活にも大きな影響を与える可能性があります。
3.家族による無償の介護も大きな役割を担っている
アメリカでも、家族は介護の重要な担い手です。
配偶者や成人した子どもが、通院の付き添い、買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理などを行うケースは珍しくありません。
また、親と子どもが別の州に住んでいることも多いため、離れた場所から親を支える「遠距離介護」も行われています。
具体的には、次のような支援です。
- 定期的に電話やビデオ通話をする
- インターネットで日用品や食事を注文する
- 通院や介護サービスの日程を管理する
- 見守り機器や緊急通報サービスを導入する
- 近くに住む親族や支援者と連絡を取り合う
ただし、仕事を続けながら介護する人も多く、時間的・経済的・精神的な負担が社会問題になっています。
4.低所得者などを支えるMedicaidとは
Medicaid(メディケイド)は、連邦政府と各州が共同で運営する公的な医療扶助制度です。
一定の要件を満たした人については、ナーシングホームでの長期介護や、自宅・地域で生活するための介護サービスが給付対象になる場合があります。
実際にMedicaidは、アメリカの長期介護を支える重要な財源となっています。
ただし、利用条件や受けられるサービスは州によって異なります。
- 所得や資産などの要件がある
- 介護の必要性について審査を受ける
- 利用できる施設や事業者が限られる場合がある
- 在宅・地域サービスには利用人数の上限や待機期間がある場合もある
- 州によって制度や申請方法が異なる
したがって、「低所得になれば誰でもすぐに希望する介護を受けられる」とは限りません。
なお、Medicaidを利用するための資産移転には細かな規則があります。将来の申請を考えて、家族へ安易に財産を移すと不利益が生じる可能性があるため、専門家への相談が必要です。
5.在宅介護を支える地域サービスもある
アメリカでは、できる限り自宅で暮らし続けたいと考える高齢者も多く、地域ごとにさまざまな支援が行われています。
代表的なものには、次のようなサービスがあります。
- 食事を自宅へ届けるサービス
- 高齢者の移動や通院を支援するサービス
- 買い物や家事を手伝う地域活動
- 成人向けデイサービス
- 家族介護者への相談や研修
- レスパイトケア
- 緊急通報装置や見守り機器
- Medicaidによる在宅・地域生活支援
有名なものに「Meals on Wheels」があり、高齢者などへ食事を届けるだけでなく、安否確認の役割も担っています。
ただし、利用できるサービスや料金、対象者は地域によって異なります。NPO、自治体、宗教団体、ボランティアなどが運営に関わっている場合もあります。
介護する家族を支える制度もある
アメリカでは、親を介護する家族自身への支援も行われています。
連邦政府の「National Family Caregiver Support Program」では、地域の実情に応じて、介護に関する情報提供、相談、研修、支援グループ、レスパイトケアなどが提供されています。
レスパイトケアとは、家族が一時的に介護から離れ、休息や自分の用事のための時間を確保できるようにする支援です。
ただし、日本の介護保険のように全国一律の内容ではなく、地域や実施団体によって利用条件やサービス内容に違いがあります。
日本とアメリカの介護制度の違い
| 比較項目 | アメリカ | 日本 |
|---|---|---|
| 基本となる制度 | 全国共通の公的介護保険はない | 公的介護保険制度がある |
| 高齢者向け医療保険 | Medicareがあるが、長期的な生活介助は原則対象外 | 医療保険と介護保険を使い分ける |
| 低所得者などへの支援 | Medicaidが長期介護の重要な財源 | 所得に応じた負担軽減制度などがある |
| 利用者の負担 | 自費負担が高額になりやすい | 原則1~3割の自己負担 |
| 制度の地域差 | 州による違いが大きい | 自治体差はあるが、全国共通の枠組みがある |
| 家族の役割 | 無償の家族介護が大きな割合を占める | 家族介護と介護保険サービスを組み合わせる |
このように比較すると、アメリカにも公的な支援はありますが、日本とは制度の成り立ちや対象範囲が大きく異なることがわかります。
多様な文化や家族観によって介護の形も異なる
アメリカは、さまざまな文化的・宗教的背景を持つ人が暮らす国です。そのため、親の介護に対する考え方も家庭によって異なります。
親子が同居して家族中心で介護する家庭もあれば、早い段階から高齢者向け住宅や介護施設を選ぶ家庭もあります。
また、本人や家族の収入、加入している保険、住んでいる州、近くに支援してくれる親族がいるかどうかによっても、選べる介護方法は大きく変わります。
十分な資産がある人は、自宅で介護スタッフを雇うこともできます。一方、介護費用を負担できず、家族が仕事を調整しながら介護を続けたり、Medicaidや地域団体の支援を頼ったりする家庭もあります。
こうした経済状況による「介護格差」は、アメリカの大きな課題の一つです。
アメリカの介護から日本で学べること
アメリカの介護事情を見ると、日本の介護保険制度には、全国共通の仕組みを通じて一定の自己負担でサービスを利用できるという大きな特徴があります。
しかし、日本でも、制度を知らなければ必要な支援につながれないことがあります。また、地域によって事業所の数やサービスの選択肢に差があり、家族の負担が重くなるケースもあります。
親の介護が必要になってから慌てないためには、元気なうちから次のことを確認しておくことが大切です。
- 親がどのような介護を希望しているか
- 介護が必要になったときの相談先
- 親の収入や預貯金、加入している保険
- 離れて暮らす場合の連絡方法
- 家族だけで抱え込まないために利用できる制度
まとめ
アメリカには、日本のような全国共通の公的介護保険制度がありません。
Medicareは高齢者の医療を支える制度ですが、日常生活を支える長期的な介護は原則として対象外です。そのため、本人の資産、家族による介護、民間保険、Medicaid、地域の支援などを組み合わせて対応しています。
日本の介護保険制度にも課題はありますが、介護が必要になったときに公的サービスへつながるための重要な仕組みです。
海外との違いを知ることは、日本の制度の良さや課題を改めて考えるきっかけにもなります。まずは地域包括支援センターなど、身近な相談先を知っておくことから始めてみましょう。
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