夜中に目が覚めたら、親がいない――。
認知症の方が一人で外出し、帰り道が分からなくなることは、本人の命に関わるだけでなく、家族にとっても大きな不安になります。
一般に「徘徊」と呼ばれますが、本人は理由もなく歩き回っているとは限りません。「自宅へ帰りたい」「仕事へ行かなければならない」「家族を迎えに行きたい」など、本人なりの目的があることも多くあります。
大切なのは、外出を力ずくで止めることではなく、行動の理由を考えながら、事故や行方不明につながりにくい環境を整えることです。
この記事では、認知症によるひとり歩きへの備え、行方が分からなくなったときの対応、GPSや地域の見守り制度、介護サービスの活用方法を解説します。

認知症の方が一人で外へ出る理由
認知症の方が外へ出ようとする背景には、さまざまな理由があります。
- 今いる場所を自宅だと認識できず「家に帰りたい」と感じる
- 以前の仕事や子育ての習慣から、職場や学校へ行こうとする
- トイレや家族を探しているうちに道が分からなくなる
- 不安、空腹、痛み、便意などをうまく伝えられない
- 昼夜の感覚が乱れ、夜間に活動する
- 落ち着かない環境から離れようとする
本人には本人なりの理由があるため、叱ったり否定したりすると、不安や混乱が強くなることがあります。
「どこへ行きたいの?」「何か心配なことがある?」と穏やかに尋ね、空腹や排せつ、痛み、室温なども確認してみましょう。
急に落ち着きがなくなった場合は、体調不良や薬の影響などが隠れている可能性もあります。いつもと様子が違うときは、主治医やケアマネジャーへ相談してください。
行方が分からなくなったら、ためらわず警察へ連絡する
家族の行方が分からなくなったときは、「もう少し待てば帰ってくるかもしれない」と様子を見すぎず、早めに110番または最寄りの警察署へ連絡してください。
連絡するときは、次の情報を伝えられるようにします。
- 氏名、年齢、住所
- いなくなった時間と場所
- その日の服装、靴、持ち物
- 身長、体格、髪形などの特徴
- よく行く場所や以前住んでいた場所
- 認知症の診断や持病の有無
- 最近撮影した顔写真
家の周辺を探す場合も、家族だけで抱え込まず、警察の指示を受けながら動きましょう。川や線路、交通量の多い道路などへ向かう可能性がある場合は、そのことも伝えます。
自治体のSOSネットワークへ登録している場合は、決められた窓口にも連絡します。
在宅介護でできる5つの備え
対応① 玄関や出入口にセンサーを設置する
本人の外出を完全に封じるのではなく、家族が早く気づける仕組みを整えます。
- ドアが開くと音やスマートフォンへ通知が届くセンサー
- 人の動きを検知するセンサーマット
- 玄関付近を確認できる見守りカメラ
- 夜間に足元を照らすセンサーライト
補助錠を取り付ける場合は、火災や地震などの緊急時に避難できることが重要です。本人を一人で閉じ込めるような使い方は避け、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員などにも相談してください。
センサーは外出そのものを防ぐ道具ではなく、外へ出ようとしたことに家族が早く気づくためのものです。
対応② 日中の活動を取り入れて生活リズムを整える
夜間に一人で外へ出ようとする背景には、昼夜の感覚の乱れや、日中の活動量の低下が関係していることがあります。
本人の体調や好みに合わせて、無理のない範囲で日中の活動を取り入れてみましょう。
- 日中は軽い運動や散歩、家事の手伝いをしてもらう
- デイサービスを活用して社会との接点を持たせる
- 夕方以降は明るすぎない照明で「夜の雰囲気」を演出する
日中に適度な活動を取り入れ、生活リズムを整えることで、夜間の覚醒や落ち着かなさが和らぐ場合があります。無理に疲れさせるのではなく、本人の体調や好みに合った活動を取り入れましょう。
対応③ GPSや身元確認につながるものを活用する
万が一の外出に備え、現在地を確認できるGPS端末を取り入れる方法があります。
- 靴や杖に取り付けるタイプ
- キーホルダー型の小型端末
- スマートフォンや見守り端末
- 自治体が貸し出す探索端末
ただし、本人が端末を置いて出かけたり、充電が切れたりすることもあります。本人が普段から身につけやすい形を選び、定期的に充電や動作を確認しましょう。
衣服や持ち物には、本人の尊厳や個人情報に配慮しながら、家族へ連絡できる名前シールや連絡用QRコードなどを付ける方法もあります。
自治体によっては、GPS端末の貸与や購入費の助成を行っています。利用条件や費用は、市区町村または地域包括支援センターへ確認してください。
対応④ 自治体の見守り・SOSネットワークへ登録する
自治体によっては、認知症の方が行方不明になった際に、警察や地域の協力機関などと情報を共有する見守り・SOSネットワークを設けています。
事前登録では、本人の写真、身体的な特徴、よく行く場所、緊急連絡先などを提出することがあります。
制度の名称、対象者、情報の共有範囲、利用方法は自治体によって異なります。住んでいる市区町村の高齢福祉担当窓口や地域包括支援センターへ確認しておきましょう。
対応⑤ ケアマネジャーや専門機関と連携する
「家族だけで見守るのが限界になってきた…」というときには、外部の支援をためらわずに使いましょう。
- 担当ケアマネジャーに現状を相談する
- デイサービスで日中の活動や見守りを受ける
- ショートステイを利用して家族が休息を取る
- 認知症専門医や認知症初期集中支援チームに相談できる地域も
「誰にも頼らず頑張る」ことが本人のためとは限りません。
早めに連携して、安心できる介護環境を整えることが大切です。
「徘徊」は悪いことではありません。罪悪感を抱かないで
認知症の方が一人で外へ出てしまっても、それは家族の見守り不足だけが原因ではありません。家族が24時間、一瞬も目を離さずに見守り続けることは現実的ではないからです。
「もっと気をつければよかった」と自分を責めるより、センサーやGPS、地域の見守り制度、介護サービスなどを組み合わせて、早く気づける仕組みを作ることが大切です。
夜間の見守りが続き、家族が眠れない状態になっている場合は、すでに外部の支援が必要なサインです。ケアマネジャーや地域包括支援センターへ具体的な状況を伝えましょう。
徘徊を止めようとして「逆効果」になることもあります
家族としては、「外へ出たら危ない」と思うあまり、強く叱ったり無理に止めたりしたくなることがあります。
ですが、認知症の方は「なぜ止められているのか」が理解できず、不安や混乱が強くなることがあります。
- 怒鳴る
- 無理やり部屋へ戻す
- 鍵を完全に隠して閉じ込める
こうした対応は、かえって興奮や不信感につながる場合もあります。
まずは安心できる声かけをしながら、安全を確保する工夫を考えることが大切です。
家の中の環境を整える
本人が家の中で迷ったり、不安になったりすることを減らすため、分かりやすい環境を整えることも大切です。
- トイレや寝室の場所を、見やすい表示や写真で示す
- 廊下や玄関付近の段差や障害物を減らす
- 夜間は足元灯をつけ、転倒を防ぐ
- 大きく見やすい時計やカレンダーを置く
- 本人が安心できる写真や使い慣れた物を置く
- 眼鏡や補聴器を適切に使用できているか確認する
表示は、本人が理解しやすい言葉や写真を使います。「外へ出てはいけません」と禁止する表示よりも、「トイレはこちら」「居間はこちら」など、次の行動が分かる案内のほうが役立つ場合があります。
介護保険で使えるサービス一覧(徘徊対応向け)
以下のようなサービスは、介護保険を使って費用負担を抑えつつ利用できる可能性があります。ケアマネジャーに相談してみましょう。
| サービス | 主な支援 | 利用目的の例 |
|---|---|---|
| デイサービス | 日中の活動、食事、入浴、交流など | 生活リズムを整える、家族の介護負担を軽減する |
| ショートステイ | 施設へ短期間宿泊する | 家族の休息や緊急時の受け入れ先を確保する |
| 小規模多機能型居宅介護 | 通い・訪問・宿泊を組み合わせる | 状態や家族の都合に合わせて柔軟に支援する |
| 福祉用具貸与 | 対象となる認知症老人徘徊感知機器など | ベッドや玄関付近の動きを早く把握する |
| 訪問介護 | 身体介護や生活援助を行う | 在宅生活を支え、家族の負担を補う |
認知症老人徘徊感知機器は、介護保険の福祉用具貸与の対象になる場合があります。ただし、要介護度や本人の状態、機器の種類によっては対象外です。GPS端末も、すべてが介護保険の対象になるわけではありません。
利用できるサービスや自己負担額は個別に異なるため、購入や契約の前にケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談してください。
まとめ|外出を責めず、早く気づける仕組みを作ろう
認知症の方のひとり歩きには、「自宅へ帰りたい」「仕事へ行きたい」「何かを探している」など、本人なりの理由があることがあります。
無理に閉じ込めたり強く叱ったりするのではなく、行動の背景を考えながら、センサー、GPS、身元確認につながる持ち物、地域のSOSネットワークなどを組み合わせましょう。
行方が分からなくなった場合は、家族だけで探し続けず、早めに警察へ連絡することが大切です。
家族が眠れない、常に見張っていなければならないという状態になったら、在宅介護だけで抱える段階を超えている可能性があります。ケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談し、デイサービスやショートステイなども取り入れながら、本人と家族の安全を守りましょう。
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