
親の介護が始まると、介護サービスの利用料だけでなく、住宅の改修費や福祉用具代、通院費など、さまざまな費用がかかります。
「介護費用を少しでも抑えたいけれど、どのような制度が使えるのかわからない」と悩む方も多いのではないでしょうか。
介護に関する公的支援には、自治体独自の助成金のほか、介護保険の給付、雇用保険の給付、税金の控除などがあります。この記事では、現金が支給される制度だけでなく、介護費用や税負担を軽くする主な制度も紹介します。
この記事では、親の介護をする本人や家族が利用できる主な制度を、対象者や注意点とともにわかりやすく解説します。
なお、自治体独自の制度は、地域によって名称・対象者・支給額が異なります。実際に利用する際は、お住まいの市区町村や勤務先などに最新情報をご確認ください。
1. 家族介護慰労金
家族介護慰労金は、重度の要介護者を自宅で介護している家族に対して、一部の自治体が支給している制度です。
国の一律の給付制度ではないため、実施していない自治体もあります。また、制度の名称や支給額、対象となる条件も地域によって異なります。
制度の内容
自治体によって異なりますが、次のような条件が設けられていることがあります。
- 要介護4または要介護5と認定されている
- 一定期間、在宅で介護している
- 介護保険サービスの利用が一定範囲内である
- 長期間の入院や施設入所をしていない
- 介護者と要介護者が同居している
- 住民税非課税世帯などの所得要件を満たしている
支給額も自治体によって異なり、年額10万円前後としている地域もあります。
「介護サービスを一度でも使うと対象外になる」とは限らず、短期入所など一部の利用を認めている自治体もあります。詳しい条件は、市区町村の介護保険課や高齢福祉担当窓口に確認しましょう。
2. 介護保険の住宅改修費|手すりや段差解消に使える
要支援・要介護認定を受けている方が、自宅で安全に生活するための改修を行う場合、介護保険から住宅改修費の支給を受けられることがあります。
支給限度基準額は、原則として要介護者・要支援者1人につき20万円です。この20万円全額が支給されるわけではなく、自己負担割合が1割の場合は最大18万円、2割の場合は最大16万円、3割の場合は最大14万円が介護保険から支給されます。
対象となる改修例

- 手すりの取り付け
- 段差の解消
- 滑りにくい床材への変更
- 開き戸から引き戸などへの扉の交換
- 和式便器から洋式便器への交換
- 上記の改修に伴って必要となる工事
補助を受けるには、事前に市区町村への申請が必要です。
住宅改修費を利用するときの注意点
- 支給限度額:20万円(自己負担1〜3割)
- 分割利用:20万円の範囲内であれば、複数回に分けての利用が可能
住宅改修費は「1回の工事に対して20万円」ではなく、原則として1人につき合計20万円まで利用できる制度です。
たとえば、対象となる工事費が5万円の場合、支給限度基準額20万円のうち、対象工事費として使った額は5万円です。残りの限度額は15万円となり、後日行う対象工事に利用できます。実際に支給される額は、自己負担割合によって異なります。
また、転居した場合や、介護の必要の程度が一定以上重くなった場合には、例外的に再度20万円の支給限度基準額が設定されることがあります。
※住宅改修費は、原則として工事を始める前の申請が必要です。先に工事を行うと支給対象にならない可能性があるため、必ずケアマネジャーや市区町村の窓口に相談してから契約しましょう。
3. 介護休業給付金
雇用保険の被保険者が、一定の要件を満たして家族の介護のために介護休業を取得すると、「介護休業給付金」を受け取れる場合があります。対象となる家族や介護休業の要件が定められているため、詳しくは勤務先やハローワークに確認しましょう。
給付額は原則として、休業開始時賃金をもとに計算した額の67%相当です。同じ対象家族について通算93日まで、3回を上限に支給されます。休業中に賃金が支払われた場合は、給付額が減額されたり、支給されなかったりすることがあります。
介護休業給付金の対象となる期間は、同じ対象家族1人につき通算93日までです。介護休業を分けて取得する場合は、3回までが対象になります。
主な受給条件
- 雇用保険の被保険者であること
- 介護休業開始前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が通算12か月以上あること
- 11日以上の月が12か月に満たない場合は、賃金支払いの基礎となった時間が80時間以上ある月も算定対象になること
- 2週間以上にわたり常時介護を必要とする家族を介護するための休業であること
- 休業後も雇用が続く見込みなど、雇用保険の受給要件を満たしていること
休業を開始した時点ですでに退職が決まっている場合は、原則として支給対象になりません。
手続きは通常、勤務先を通して行います。介護休業を検討している場合は、まず勤務先の人事・労務担当者に相談しましょう。厚生労働省・介護休業給付の案内
4. 介護を理由に退職した場合の失業給付
家族の介護を理由に退職した場合でも、すべての人が自動的に「特定理由離職者」になるわけではありません。
親族の病気やけがなどで家庭の事情が急変し、看護・介護のために離職を余儀なくされた場合は、「正当な理由のある自己都合退職」として、特定理由離職者に該当する可能性があります。ただし、介護を理由に退職すれば必ず該当するわけではなく、具体的な事情をもとにハローワークが判断します。
また、失業給付を受けるには、原則として「すぐに働ける状態」であり、仕事を探していることが必要です。退職後も介護に専念するため、すぐに就職できない場合は、受給期間延長の対象になる可能性があります。
介護を理由に退職する前に、介護休業や介護休暇、勤務時間の短縮制度を利用できないか、勤務先に相談することも大切です。ハローワーク・特定理由離職者の範囲
5. 高額介護サービス費制度
1か月に支払った介護保険サービスの自己負担額が、所得区分に応じた上限額を超えた場合、超過分が「高額介護サービス費」として支給されます。
同じ世帯に介護サービスを利用している方が複数いる場合は、世帯内の自己負担額を合算して判定されることがあります。
2026年8月利用分から、住民税非課税世帯の一部について、高額介護サービス費の所得区分を判定する基準額が見直されました。対象となる区分では、「公的年金等の収入金額とその他の合計所得金額の合計」の基準が、年80万9,000円から年82万6,500円に変更されています。この金額は月々の自己負担上限額ではなく、該当する所得区分を判定するための基準です。
適用される月々の上限額は、世帯の課税状況や本人の所得などによって異なります。詳しくは市区町村から届く案内、または介護保険担当窓口で確認してください。厚生労働省・2026年8月の見直し
高額介護サービス費制度の申請と支給の流れ
- 対象になると、市区町村から申請書や支給のお知らせが届くのが一般的です。必要事項や振込口座を記入し、介護保険担当窓口に提出します。
- 一度申請すると、その後は申請した口座へ自動的に振り込まれる自治体もありますが、手続き方法は地域によって異なります。「最初に一度申請すれば全国共通で自動支給になる」とは限らないため、自治体から届いた案内を確認してください。
案内が届かない場合でも、対象になっている可能性があります。自己負担額が高くなった月がある場合は、市区町村の介護保険課に問い合わせてみましょう。
対象外となる主な費用
高額介護サービス費の対象になるのは、原則として介護保険サービスの1~3割の自己負担分です。次のような費用は対象に含まれません。
- 施設の食費・居住費
- 日常生活費
- 支給限度額を超えて利用したサービス費
- 福祉用具購入費
- 住宅改修費
支給を受ける権利には時効があります。申請を忘れていた場合は、早めに市区町村へ相談しましょう。
6. 高額医療・高額介護合算療養費制度
同じ世帯で支払った医療保険と介護保険の自己負担額が高額になった場合、「高額医療・高額介護合算療養費制度」を利用できることがあります。
毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間に支払った医療費と介護サービス費の自己負担額を合算し、所得や年齢に応じた上限額を超えた場合に、その超過分が支給されます。
ただし、単純に家族全員の費用を合計できるわけではありません。同じ医療保険に加入している世帯員が合算の基本となります。
計算期間中に加入する医療保険が変わった場合は、以前の保険者から自己負担額証明書を取得する必要があることもあります。申請方法は、基準日である7月31日時点に加入していた医療保険の窓口へ確認しましょう。厚生労働省・高額介護合算療養費
7. 介護費用と医療費控除
介護保険サービスの利用料のうち、医療との関連性が高いサービスについては、医療費控除の対象になることがあります。
たとえば、訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、居宅療養管理指導などは、一定の条件を満たすと医療費控除の対象になります。
訪問介護や通所介護などは、医療系の居宅サービスと併せて利用している場合に限り、対象になることがあります。ただし、生活援助を中心とした訪問介護など、対象外となるサービスもあります。
施設サービスの費用も、施設の種類によって医療費控除の対象範囲が異なります。たとえば、特別養護老人ホームでは、介護費・食費・居住費にかかる自己負担額の2分の1が対象です。介護老人保健施設や介護医療院では、これらの自己負担額が対象となる場合があります。領収書に記載された「医療費控除対象額」を確認し、不明な点は施設や税務署に問い合わせましょう。
高額介護サービス費などの払い戻しを受けた場合は、その金額を医療費控除の計算から差し引く必要があります。
医療費控除は、支払った医療費がそのまま戻ってくる制度ではありません。確定申告によって所得から一定額を差し引き、所得税や住民税の負担を軽減する制度です。国税庁・介護保険サービスと医療費控除
8. GPS機器の貸与・購入費補助
認知症などにより行方不明になる心配がある高齢者を対象に、GPS端末の貸し出しや購入費・初期費用・月額利用料の一部を助成している自治体があります。
制度の名称は「徘徊高齢者探索サービス」「位置情報検索サービス」など自治体によって異なります。
対象者の要件、家族の負担額、利用できる端末も地域によって違うため、市区町村の高齢福祉担当窓口や地域包括支援センターに確認しましょう。
9. 生活保護の介護扶助
生活保護を受給している方が介護サービスを必要とする場合は、生活保護制度の「介護扶助」を利用できることがあります。
介護扶助の対象になると、介護保険の対象となるサービス費用が、原則として事業者へ直接支払われます。ただし、利用できるのは介護扶助の対象として認められた範囲内です。
介護保険の対象外となるサービスや、施設での日常生活費などは、介護扶助の対象にならないことがあります。
利用には要介護認定や福祉事務所での手続きが必要になるため、担当ケースワーカーに相談しましょう。
まとめ
親の介護で利用できる公的支援は、現金が支給される補助金だけではありません。
住宅改修費や高額介護サービス費のような介護保険の給付、仕事を休む人を支える介護休業給付金、税負担を軽くする医療費控除など、家庭の状況に応じてさまざまな制度を利用できます。
ただし、制度によって申請先や対象条件が異なり、工事や退職などをした後では利用できないものもあります。特に住宅改修や介護離職を検討している場合は、行動する前に相談することが大切です。
どの制度を利用できるかわからないときは、次の窓口に相談してみましょう。
- 市区町村の介護保険課・高齢福祉担当窓口
- 地域包括支援センター
- 担当のケアマネジャー
- 勤務先の人事・労務担当者
- ハローワーク
- 税務署または税理士
自分たちだけで費用を抱え込まず、利用できる制度がないか早めに確認することが、介護生活を長く続けるための助けになります。


