「こんなに手をかけてるのに、感謝の言葉もない」
「わがままばかりで、正直つらい」
そんなふうに感じたこと、ありませんか?
でももしかしたら、その“わがまま”に見える言動の奥には、介護される側の複雑な気持ちがあるかもしれません。

今回は、「介護される立場の人がどんな気持ちで日々を過ごしているのか」に目を向けてみます。
1. 「ありがとう」と言えない理由
高齢者や要介護者が「ありがとう」と言わないのは、必ずしも感謝していないからではありません。
- 自分の自由が失われたことへの喪失感
- 「迷惑をかけている」と思いながらも、どうしようもない気持ち
- 今まで家族の“親”や“長”だった自分が、弱くなったことへの葛藤
こうした心の揺れが、「不機嫌」や「わがまま」と誤解されてしまうのです。
2. 「プライド」と「さみしさ」がぶつかり合う
たとえば、オムツの交換や入浴介助といったデリケートなケアに対して、強く拒否されることはありませんか?
これは、「自尊心」が傷つく行為だからです。
- 「恥ずかしい」
- 「自分でできなくなったことが悔しい」
- 「家族にこんな姿を見せたくない」
こうした思いは言葉にならず、「怒り」「無言」「拒絶」という形で現れてしまうことがあります。
介護する側が思う「わがまま」だと感じてしまう行動
「そんなの食べたくない!」と食事を拒否
せっかく作ったごはんに、「味が濃い」「薄い」「食べたくない」と言われると、介護する側はがっかりしてしまいます。
でも本人にとっては、加齢による味覚の変化や、その日の体調によって「本当に口に合わない」こともあるのです。
「さっき言ったでしょ!」と何度も繰り返す
同じ質問を何度もされたり、同じ話を繰り返されたりすると、つい「わがままなんじゃないの?」と思ってしまいます。
けれど、これは認知機能の衰えや不安感が原因で、無意識に繰り返してしまっていることが多いのです。
「トイレに行きたいけど、行きたくない」と言い張る
「行った方がいいよ」とすすめても、「面倒くさい」「今は行きたくない」と拒否。ところが数分後には「トイレ!」と慌てて言うことも…。
これも、自分でコントロールできない身体への苛立ちや、介助されることへの抵抗からくる行動かもしれません。
「そんなの昔はこうだった!」と昔のやり方を押し通す
「今はこうした方がいいよ」と説明しても、「それはおかしい」「昔はこうだった」と譲らないことがあります。
本人にとっては、長年の習慣や“自分らしさ”を守るためのプライドが関係している場合も多く、否定されると不安になるのです。
「もういい、誰も私のことなんか考えてない」と拗ねる
「忙しいからちょっと待っててね」と言っただけなのに、「放っておかれてる」と感じてしまう親御さんもいます。
こうした言動の裏には、「家族の中で役に立っていない」と感じる寂しさがあるのかもしれません。
3. 「頼りたいのに、頼れない」矛盾した心
介護される側は、「迷惑をかけたくない」「もう十分世話になった」と感じている一方で、本当はもっと助けてほしい、そばにいてほしいとも感じています。
- 頼ったら嫌われるのでは?
- 子どもに心配をかけたくない
- 孤独はいやだけど、素直になれない
この“心の矛盾”に気づくだけで、介護の関係性は少しやわらかくなるかもしれません。
もしかして、見えないSOSかも?
介護される側の「わがまま」に見える言動には、
実は“助けて”という言葉にならないSOSが隠れていることがあります。
たとえば、
「テレビの音がうるさい」「食事が気に入らない」
といった細かい不満が続くと、介護する側は「もうイヤ」と思ってしまいがちです。
でも、それは「もっと話を聞いてほしい」「気づいてほしい」
という、孤独のサインかもしれません。
体の自由がきかないという現実。
自分の思い通りにいかない日常。
昔のようにできない自分へのいらだち。
そのすべてが、“わがまま”という仮面をつけて現れることがあるのです。
介護は、二人三脚
介護は、決して一方通行ではありません。
される側も、する側も、どちらも不安を抱えています。
「わかってあげなきゃ」と無理に思う必要はありません。
けれど、もし少しだけ心の余裕がある日があったら、
「この人は今、何を感じているんだろう?」と想像してみてください。
その一歩が、介護を“義務”から“関係性”に変えるきっかけになるかもしれません。
4. 介護する側の気持ちも、もちろん大切に
この記事は、介護される側を擁護するためのものではありません。
介護しているあなたの気持ちがつらいことも、苦しいことも、当然です。
でも「何がこの言動の奥にあるのか?」と想像することで、ほんの少し、心の余裕が生まれるかもしれません。
5. 見えていなかった“気持ち”に気づくとき
介護とは、身体の世話だけではなく、心と心のやりとりでもあります。
- うまく言えない感情
- 昔の家族関係のわだかまり
- 老いや死への不安
介護される側が抱えるこうした“見えない感情”に気づくことができたとき、
少しだけ「わがまま」が「メッセージ」に変わって見えるかもしれません。
まとめ
「わがまま」は、甘えているだけかもしれない・・
介護は大変です。
でも、される側にも言葉にならない思いがあると思います。
その両方を知ることで、ほんの少しだけ、お互いがやさしくなれるかもしれません。