深刻な「親の徘徊」
高齢のご家族を在宅で介護している方にとって、
「夜中にいなくなった」
「勝手に外に出てしまった」
という徘徊(はいかい)はとても深刻な問題です。
実は、認知症の症状のひとつに
「目的のない移動」
「道に迷う」
「帰宅願望」
などがあります。
この記事では、親御さんが徘徊するようになったとき、在宅でできる具体的な対策を丁寧に解説します。
■ なぜ徘徊してしまうのか?原因を知っておきましょう
まず、徘徊は「歩き回りたい」という単なるクセではなく、認知症による記憶の混乱や不安から起こる行動です。
- 「家に帰りたい」と言って家を出る(実は今いる家を忘れている)
- 昔の仕事場に行こうとする
- トイレを探していたが迷ってしまった
- 夜と昼の感覚が逆転している(昼夜逆転)
このように、「本人なりの理由」があることがほとんどです。
頭ごなしに叱ったり止めたりせず、まずは本人の気持ちに寄り添って理解することが大切です。
■ 対応①:玄関・窓に鍵やセンサーを設置する
徘徊は「気づかぬうちに外へ出てしまう」ことが危険です。
そのため、玄関や勝手口、ベランダなどの出入口を見直すことが大切です。
- 補助鍵(サブロック)を高い位置や足元に設置する
- センサー付きアラーム(ドアが開くと音が鳴る)を活用する
- 玄関マットに“踏むと音が鳴る”マットを敷く
- 鍵にカバーをつけて目立たせないようにする
これらの対策で、「すぐに外に出られる状態」を避ける工夫が可能です。
■ 対応②:日中の活動を充実させて昼夜逆転を防ぐ
徘徊が夜間に起きるケースでは、「昼間に眠ってしまい、夜眠れなくなって徘徊する」ことが原因のひとつです。
- 日中は軽い運動や散歩、家事の手伝いをしてもらう
- デイサービスを活用して社会との接点を持たせる
- 夕方以降は明るすぎない照明で「夜の雰囲気」を演出する
本人が疲れて自然に眠れるようにすると、夜間の徘徊を減らすことができます。
■ 対応③:GPS付きの見守りサービスを利用する
万が一、外へ出てしまっても安心できるように、GPS機能付きの端末を持ってもらうのも有効です。
- GPS付きの靴、杖、キーホルダー型端末など
- 携帯電話・スマホにアプリを入れる(機能がシンプルなものが◎)
- 地域によっては、自治体が無料または安価で貸し出す制度もあり
「もしものときにどこにいるかすぐわかる」という安心感が、家族の負担を大きく減らします。
■ 対応④:地域の「徘徊SOSネットワーク」を登録しておく
多くの自治体では、徘徊が心配な高齢者を地域で見守る**「徘徊SOSネットワーク」**を運営しています。
- 事前に名前・服装・特徴などを登録しておく
- 万が一の際、警察や地域の見守りボランティアが協力して探してくれる
- GPSと連動している場合もあり
これは公的な仕組みなので、必ず住んでいる市区町村の福祉課や地域包括支援センターに確認しましょう。
■ 対応⑤:ケアマネジャーや専門機関と連携する
「家族だけで見守るのが限界になってきた…」というときには、外部の支援をためらわずに使いましょう。
- 担当ケアマネジャーに現状を相談する
- デイサービスやショートステイで一時的な預かりも可能
- 認知症専門医や認知症初期集中支援チームに相談できる地域も
「誰にも頼らず頑張る」ことが本人のためとは限りません。
早めに連携して、安心できる介護環境を整えることが大切です。
■ 「徘徊」は悪いことではありません。罪悪感を抱かないで
ご家族が徘徊するようになると、「自分の介護の仕方が悪かったのでは?」「もっと気をつけるべきだった」と感じてしまう方がとても多くいらっしゃいます。
しかし、徘徊は認知症という病気の進行による自然な症状であり、誰かの責任ではありません。
介護者が自分を責めすぎることで、心身の疲労が限界に達し、介護うつや体調不良を招くこともあります。
大切なのは、「責める」ことではなく、「起きる前提で備える」ことです。
失敗しても大丈夫な仕組みを作ることで、家族も本人も安心して暮らせる環境に近づけます。
■ 徘徊中の「見つけにくい特徴」と注意点
徘徊中の高齢者は、次のような特徴があり、意外と見つけにくいと言われています。
- 道路の端を静かに歩いている(不審な様子がない)
- 目的地があるように見えて、実際は迷っている
- 昼間ではなく、早朝や深夜に行動する
- 普段と違う服装(パジャマ、サンダルなど)で外出している
そのため、見た目だけでは「助けを必要としている」と判断しづらいことがあるのです。
地域の見守りネットワークや近隣の方に「うちの家族が徘徊するかもしれない」と一言伝えておくことが、発見の早さに直結する場合もあります。
■ 家の中でできる小さな工夫も有効です
大がかりな設備が難しい場合でも、以下のような簡単な工夫で徘徊の予防や遅延につながります。
- 靴を隠す・見えにくい位置に置く(靴がないと外出を諦めることも)
- ドアに目立つメモを貼る(「ここは出口ではありません」「トイレはこっち」など)
- 時計やカレンダーを部屋の複数箇所に置いて時間感覚を補う
- 部屋に「家の中である」とわかるような写真や馴染みの物を飾る
特に認知症初期では、視覚的なヒントが本人の行動を落ち着かせることがあります。
■ 介護保険で使えるサービス一覧(徘徊対応向け)
以下のようなサービスは、介護保険を使って費用負担を抑えつつ利用できる可能性があります。ケアマネジャーに相談してみましょう。
サービス名 | 内容 | 利用の目的例 |
---|---|---|
通所介護(デイサービス) | 日中の活動や入浴・食事を提供 | 昼間の運動不足・孤立予防 |
ショートステイ | 数日間の短期宿泊介護 | 家族の休息・夜間徘徊対策 |
福祉用具レンタル | 徘徊感知センサー、徘徊マットなど | 外出時の見守り・早期発見 |
訪問看護 | 医療職による定期訪問 | 症状変化の早期把握 |
これらのサービスは、すべて介護保険の対象として利用できる可能性があり、自己負担を抑えながら介護の負担を軽減することができます。
たとえば、日中にデイサービスを利用して体を動かすことで、夜ぐっすり眠れるようになり、徘徊の回数が減ったという例もあります。
また、ショートステイを上手に活用して、介護する家族が休息をとることも非常に重要です。
大切なのは、「まだ大丈夫」と我慢せずに、必要な支援を早めに取り入れることです。
どのサービスが合っているか分からない場合は、まずケアマネジャーに今の状況を伝えてみることをおすすめします。
本人だけでなく、家族みんなが安心して暮らすための第一歩になります。
■ まとめ|「徘徊」は対策できる症状です
徘徊は、認知症による「記憶の混乱」や「不安な気持ち」から起きています。
放っておくと命に関わる危険もありますが、適切な環境づくりと支援の活用で、在宅介護でも落ち着いた生活を送ることが可能です。
「家族の疲れすぎが、最も大きなリスク」と言われることもあります。
徘徊を責めず、仕組みと周囲の力を借りながら介護を続けることを目指していきましょう。