認知症の親に運転免許を返納してもらうには?説得の進め方と返納後の移動手段

認知症の親の運転免許返納について話し合う高齢の父親と娘

認知症の親に運転免許を返納してほしいと思っても、どう切り出せばよいのか迷うことがあります。

「危ないから、もう運転しないで」と伝えるだけでは、親が反発したり、話し合いが進まなかったりすることもあります。運転は、親にとって自分で出かける自由や、長年続けてきた習慣と結びついているからです。

大切なのは、本人の気持ちに耳を傾けながら、安全を第一に考え、返納後の移動手段も一緒に準備することです。

この記事では、認知症と運転免許に関わる制度の基本、話し合いの準備、伝え方の例、納得してもらえないときの相談先、返納後の生活を支える方法を紹介します。

制度の説明は2026年10月時点の公的情報をもとにしています。手続きや手数料、受付時間は都道府県によって異なる場合があります。実際の申請前に、警察や運転免許センターへ確認してください。

まず確認したいこと|運転に不安がある場合は安全を優先する

認知症の診断があるかどうかにかかわらず、運転中の変化や事故につながる不安がある場合は、説得を続けるだけでなく、運転を控えることも含めて早めに相談しましょう。

「夜間や遠出だけやめて、近所なら運転する」といった約束で様子を見ることが、必ずしも安全とは限りません。運転を続けてよいか判断に迷うときは、主治医や警察の安全運転相談窓口に相談してください。

助手席に乗って運転の様子を確かめる方法もありますが、同乗すること自体に危険を感じる場合は無理をしないでください。実際に運転させて確かめるより、家族が気づいた変化を記録して専門家に伝える方法があります。

認知症の親と運転について話し合う理由

運転には、周囲に注意を向ける力、状況を判断する力、道順を覚える力、危険にすばやく対応する力などが必要です。認知機能の変化が運転に影響することがありますが、その現れ方には個人差があります。

本人は変化に気づきにくいこともあります。家族が「最近、運転が心配」と感じたら、感情的に責めるのではなく、具体的な出来事をもとに話し合い、医師や警察などに相談しましょう。

家族が気づきやすい運転の変化

  • 車に新しいキズやへこみが増えた
  • 慣れた道で迷う、帰宅が以前より遅くなる
  • 信号や一時停止を見落とすことがある
  • 急ブレーキや急な進路変更が増えた
  • 車庫入れや駐車に時間がかかるようになった
  • 運転中にぼんやりしたり、強くいら立ったりする
  • 助手席に乗っていて危険を感じることがあった

ひとつ当てはまっただけで、家族が運転の可否を決められるわけではありません。ただし、危険を感じる出来事があった場合は、日時や状況をメモして、主治医や警察の安全運転相談窓口に伝えましょう。

認知症の人の運転については、2017年に日本神経学会、日本神経治療学会、日本認知症学会、日本老年医学会が、交通安全に加えて本人の暮らしを守る支援や、軽度の認知機能低下時の適切な判断の必要性を提言しています。診断名だけで家族が判断せず、本人の状態や制度を確認しながら相談することが大切です。

認知症と運転免許に関わる制度

認知機能検査などの高齢運転者向け制度は、主に75歳以上の人が免許を更新するときなどに関わります。一方、病気の症状が運転に影響する場合は、年齢や更新時期にかかわらず、免許について公安委員会が判断する制度があります。

制度対象・内容
認知機能検査免許更新期間の満了日に75歳以上となる人が対象です。検査は「手がかり再生」と「時間の見当識」の2項目で行われます。「認知症のおそれがある」と判定された場合は医師の診断などが必要になりますが、検査結果だけで直ちに免許が取り消されるわけではありません。
運転技能検査75歳以上で、過去3年間に一定の違反歴がある人が対象です。対象となる人は、更新までに検査に合格する必要があります。
臨時認知機能検査など75歳以上の人が一定の違反をした場合などに、臨時の検査や医師の診断が必要になることがあります。
医師による届出医師は、患者の症状から運転に支障があると判断した場合、公安委員会へ任意に届け出ることができます。
自主返納運転免許が有効な本人が、自分の意思で免許を返納する手続きです。ただし、免許停止・取消しの処分中の人や、処分基準に該当する人などは返納できない場合があります。

道路交通法上の認知症と診断された場合は、病気の種類や状態などに応じて、公安委員会が免許の取消しや停止を判断します。免許の処分は、診断があった時点で一律に自動決定されるものではありません。

また、75歳以上の人が認知機能検査で「認知症のおそれがある」と判定されても、その結果だけで直ちに免許が取り消されるわけではありません。医師の診断などを経て、公安委員会が判断します。

自主返納や運転経歴証明書の申請方法、必要書類、手数料は都道府県によって異なります。制度の詳細は、警察庁「認知機能検査について」や、各都道府県警察の案内で確認してください。

運転経歴証明書とは

免許を自主返納した人などは、申請により運転経歴証明書の交付を受けられます。免許証に代わる公的な本人確認書類として利用できますが、機関によっては本人確認書類として受け付けていない場合があります。

  • 自主返納後、原則として5年以内に申請できます
  • 申請場所や必要書類、手数料は都道府県によって異なります
  • 地域や事業者によっては、提示すると交通機関や店舗などの特典を受けられます
  • 免許の停止・取消しの処分中や、処分基準に該当する場合などは、自主返納や証明書の申請ができないことがあります

申請前に、住んでいる地域の警察署や運転免許センターに確認しましょう。詳細は警察庁「運転免許証の自主返納について」でも確認できます。

話し合いの前に準備しておきたい4つのこと

いきなり「免許を返して」と切り出すより、運転の状況、相談できる人、返納後の移動手段を整理してから話すと、親の不安に具体的に答えやすくなります。

  1. 気になった出来事を具体的に記録する
    「最近危ない気がする」だけではなく、「先週、交差点で一時停止しなかった」など、日時や状況を簡潔にメモします。家族が気づいたキズや、道に迷った出来事も記録しておきましょう。
  2. 主治医や専門職に相談する
    受診時に運転の心配を伝え、どのように本人と話すか相談します。本人が受診を嫌がる場合は、医療機関に家族だけで相談できるか事前に確認しましょう。ケアマネジャーがいる場合は、日ごろの様子や移動手段について相談できます。
  3. 家族の考えをそろえる
    家族の意見が大きく分かれると、親が誰の話を聞けばよいか分からなくなることがあります。誰が話すのか、何を伝えるのか、返納後に誰がどの支援をするのかを事前に話し合っておきます。
  4. 返納後の移動方法を調べる
    通院、買い物、友人との交流など、親が車で出かけている場所を書き出します。それぞれについて、送迎、公共交通、宅配など利用できそうな方法を調べておきましょう。

家族だけで抱え込まず、警察の安全運転相談ダイヤル「#8080」に相談する方法もあります。本人が相談に行けない場合に、家族だけで相談できるかどうかは、地域の窓口に確認してください。

免許返納を話すときの伝え方

運転をやめることは、親にとって移動手段だけでなく、自分で生活を決める感覚や長年の習慣を手放すことでもあります。まず本人の不安や希望を聞き、家族が心配している理由を落ち着いて伝えましょう。

伝えるときに意識したい6つのポイント

  1. まず、運転を続けたい気持ちを聞く
    「車がないと不便だよね」「運転が好きだったよね」と、本人の立場に立って話を始めます。
  2. 決めつけず、家族の気持ちとして伝える
    「あなたは危ない」ではなく、「事故にあってほしくないから心配している」と伝えます。
  3. 具体的な出来事を一つ伝える
    過去の失敗をいくつも並べるのではなく、家族が心配になった出来事を一つ選びます。
  4. 移動手段を一緒に考える
    返納後の通院や買い物をどうするか、具体的な方法を提案します。
  5. 一度で結論を出そうとしない
    親が動揺しているときは話を切り上げ、別の日に改めて話しましょう。ただし運転に差し迫った危険がある場合は、次の話し合いを待たずに専門家へ相談してください。
  6. 本人が選べることを残す
    返納の相談先や、返納後に利用する移動手段など、本人が選べる部分を一緒に考えます。運転を続けること自体を前提にした妥協案は、安全性を確認せずに提案しないようにしましょう。

避けたい言い方と伝え方の例

場面避けたい言い方伝え方の例
病気について話すとき「認知症なんだから、もう運転しちゃだめ」「運転のことで心配なことがあるから、先生にも相談してみない?」
返納を切り出すとき「免許を返して。もう決めたから」「返したあとの通院や買い物も一緒に考えたいんだ」
事故が心配なとき「事故を起こしたら大変なことになるよ」「この前の交差点のことが心配で、運転を続けて大丈夫か相談したい」
周囲と比べるとき「みんな返納しているよ」「これからも安心して出かけられる方法を一緒に探したい」
同じ話をするとき「前にも言ったでしょ」「もう一度話したいことがあるんだ。少し聞いてもらえる?」

誰が、いつ、どこで話すか

  • 誰が:親が話を聞きやすい家族や、信頼している人を中心にします。必要に応じて、主治医やケアマネジャーなどに相談します。
  • いつ:本人の体調や気分が落ち着いている時間を選びます。疲れているときや、口論の直後は避けましょう。
  • どこで:本人が落ち着いて話せる場所を選びます。大勢で囲んで説得するのではなく、まずは少人数で話すほうがよい場合があります。

話した内容を忘れることがある場合は、決まったことや次の予定を短く紙に書いておく方法もあります。本人の様子に合わせて、無理のない伝え方を考えましょう。

納得してもらえないときは、家族だけで抱え込まない

親がすぐに同意しないこともあります。家族だけで何度も説得を続けるより、第三者に相談し、本人が話を聞きやすい人や窓口につないでもらいましょう。

相談先の例

  • 主治医・もの忘れ外来:運転中の変化を伝え、受診や今後の対応について相談します。
  • 警察の安全運転相談窓口:運転への不安、免許の継続、自主返納、必要な手続きなどを相談できます。
  • ケアマネジャー:本人の生活状況を踏まえて、家族や介護サービスとの調整を相談できます。
  • 地域包括支援センター:高齢者と家族の総合相談窓口です。介護や移動手段について、利用できる地域の支援を確認できます。

警察庁の安全運転相談ダイヤル「#8080」は、発信した場所を管轄する都道府県警察の窓口につながります。受付は原則として平日の執務時間内で、通話料は利用者負担です。つながらない場合は、都道府県警察の相談窓口へ直接連絡してください。

詳しくは警察庁「安全運転相談窓口について」をご覧ください。

車の鍵や車の処分を考えるとき

本人が運転をやめることに納得していないとき、家族が黙って鍵を隠したり、車を処分したりすると、本人との信頼関係を損ねることがあります。鍵の管理や車の扱いに困った場合も、まず主治医、ケアマネジャー、地域包括支援センター、警察の相談窓口に相談してください。

すでに危険な運転があり、本人が車で出かけようとしている場合は、家族だけで無理に制止しようとせず、警察や専門職に状況を伝えて対応を相談しましょう。事故や危険が差し迫っている場合は、110番に通報してください。それ以外の運転の心配は、警察の安全運転相談窓口「#8080」などに相談しましょう。

返納後の移動手段を一緒に考える

免許返納に不安を感じる理由のひとつは、「これから自分で出かけられなくなるのでは」という心配です。返納の話をするときは、親がよく行く場所を確認し、代わりの移動手段を具体的に考えておきましょう。

行き先・目的代わりの方法の例
通院病院の送迎バス、タクシー、家族の送迎など。介護保険サービスを利用している場合は、通院時に使える支援についてケアマネジャーに確認します。
買い物スーパーや生協の宅配、移動販売、家族との買い物など。訪問介護による買い物支援を利用できるかは、本人の状況やケアプランなどによって異なります。
日常の外出路線バス、コミュニティバス、乗合タクシー、タクシーなど。運転経歴証明書の提示による割引や助成があるか、自治体に確認します。
友人との交流や趣味家族や友人との送迎日を決める、地域のサロンや通いの場を利用するなど、外出の機会を保つ方法を考えます。

利用できる交通手段や支援は地域によって異なります。市区町村の窓口や地域包括支援センターに相談し、実際に使えるサービスを確認しましょう。

車の維持費を移動費に回せるか考える

車を手放すと、自動車税、保険料、車検、ガソリン代、駐車場代などの負担がなくなることがあります。年間の維持費をおおまかに計算し、タクシーやバスなどの費用に回せるかを一緒に考える方法もあります。

自治体によっては、タクシー券や運賃助成などを実施している場合があります。利用条件や対象となる人を、市区町村の窓口で確認してみましょう。

返納後も外出や人との交流を続ける

運転をやめると、外出の回数が減ることがあります。通院や買い物だけでなく、友人に会う、趣味を楽しむなど、本人が続けたい活動についても一緒に考えましょう。

返納後にどこへ行くか、誰と出かけるかを先に決めておくと、生活の変化への不安をやわらげやすくなります。

相談できる窓口

相談先相談できること
安全運転相談ダイヤル「#8080」運転の不安、免許の継続や自主返納、相談窓口の案内など。受付時間は原則として平日の執務時間内です。
運転免許センター・警察署自主返納、運転経歴証明書の申請、必要書類や受付時間など。地域によって手続きが異なります。
地域包括支援センター高齢者と家族の総合相談、介護や地域の移動支援について。
ケアマネジャー介護サービスを利用している場合の生活支援や、本人・家族の相談。
主治医・もの忘れ外来認知機能や運転への影響、受診や今後の対応について。

安全運転相談ダイヤルの詳細は警察庁「安全運転相談窓口について」、自主返納や運転経歴証明書については警察庁「運転免許証の自主返納について」をご確認ください。

まとめ|安全と返納後の暮らしを一緒に考える

認知症の親に免許を返納してもらう話は、運転をやめてもらうことだけで終わりません。安全を守りながら、親がこれからも必要な場所へ出かけ、人とのつながりを保てる方法を一緒に考えることが大切です。

  • 運転に不安がある場合は、安全を優先して主治医や警察に相談する
  • 家族が気づいた変化は、具体的な出来事として記録する
  • 責めたり決めつけたりせず、本人の不安や希望を聞く
  • 返納後の通院、買い物、交流の方法を具体的に考える
  • 家族だけで抱え込まず、医師、ケアマネジャー、地域包括支援センター、警察の相談窓口を利用する

話し合いが一度でまとまらないこともあります。運転の心配があるときは先延ばしにせず、まず相談先につなげてください。安全と返納後の生活を一緒に考えることが、親の安心にもつながります。

参考情報

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