
親の介護が始まると、「誰が通院に付き添う?」「手続きや費用の管理は誰がする?」と、家族で決めることが増えていきます。
近くに住む人へ日々の対応が偏ったり、離れて暮らす家族との間で親の状態や負担の受け止め方に差が出たりすると、話し合いが難しくなることもあります。
介護の役割は、食事や入浴などの直接介助だけではありません。通院の付き添い、手続き、費用の確認、介護サービスとの連絡など、家族の状況に合わせて分担できます。
この記事では、家族が分担できる役割と、話し合いを進めるときの整理方法を紹介します。「誰が全部するか」ではなく、「必要なことをどう支えるか」を考える参考にしてください。
親の介護は誰がする義務がある?
民法877条では、直系血族や兄弟姉妹は互いに扶養する義務があると定められています。ただし、扶養義務があることは、子どものうち誰か一人が仕事を辞めたり、親と同居して毎日の介護をすべて担ったりすることを意味するものではありません。
誰がどのように支えるかは、親の生活状況や必要な支援、家族それぞれの健康・仕事・経済状況などを踏まえて考える必要があります。「長男だから」「近くに住んでいるから」という理由だけで、介護の役割が自動的に一人へ決まるわけではありません。
ここでは家族でできる役割分担を紹介します。扶養義務や、介護できない場合の考え方を詳しく知りたい方は、親の介護をしないとどうなる?子どもの扶養義務と、介護できないときの相談先も参考にしてください。
親の介護で家族が揉めやすい3つのパターン
1.近くに住む家族へ負担が集中する
親の近くに住んでいる、連絡を取りやすい、時間の融通が利くといった理由から、特定の家族へ介護の負担が集中することがあります。
最初は買い物や通院の付き添いだけでも、親の状態が変化すると、服薬管理、ケアマネジャーとの連絡、緊急時の対応など、担う役割が少しずつ増えていきます。
ほかの家族から負担が見えにくいため、介護を担っている人が疲弊したり、不公平感を抱いたりすることがあります。
2.介護する人と離れて暮らす家族の認識がずれる
親と離れて暮らしている家族は、日々の変化や介護の大変さを把握しにくいことがあります。
その結果、施設への入居やお金の使い方について意見を伝えたつもりでも、日常的に介護している人には「実際の負担を知らずに口だけ出している」と受け取られる場合があります。
誰が何をしているのか、親の状態がどのように変化しているのかを、家族間で定期的に共有することが大切です。
3.お金と実際の介護を同じ基準で考えてしまう
介護費用を負担することも、大切な役割のひとつです。ただし、お金を負担することと、日常的な介護に伴う時間的・精神的な負担は、単純に比べられるものではありません。
費用を負担する人、通院へ付き添う人、手続きをする人など、それぞれの役割を確認し、特定の人に無理が生じていないか定期的に見直しましょう。
家族で分担できる介護の役割
介護と聞くと、食事や排せつ、入浴などの身体介助を思い浮かべるかもしれません。しかし、家族が担う役割はそれだけではありません。
親と同居できない場合や、直接介護することが難しい場合でも、それぞれの生活状況に合わせて役割を分担できます。
| 分担すること | 具体例 | 担当・頻度の例 |
|---|---|---|
| 日々の連絡・見守り | 電話で様子を聞く、変化を家族に共有する | 家族で曜日を分ける |
| 通院の支援 | 予約、付き添い、本人の同意を得て診察内容を共有する | 通院先や予定に合わせて分担する |
| 手続き・連絡調整 | 市区町村への申請、ケアマネジャーや事業所との連絡 | 連絡窓口を決め、記録を共有する |
| 買い物・生活の支援 | 買い物、配食や見守りサービスの確認 | 近くの家族と外部サービスを組み合わせる |
| 費用の確認 | サービス利用料や介護用品の支出を記録する | 本人の同意や必要な権限を確認して担当する |
| 介護する人の休息 | 一時的な交代、相談に乗る、サービス利用を検討する | 家族と介護サービスで支える |
ひとりがすべてを担当する必要はありません。「近くに住む人が日常の対応をする代わりに、遠方の家族が手続きや費用を担当する」など、それぞれができることを組み合わせます。
また、家族だけで役割を埋めようとせず、訪問介護、デイサービス、ショートステイ、配食や見守りなどの外部サービスを利用することも大切です。
役割を決めるときに確認したいこと
家族で介護の役割を決めるときは、兄弟姉妹の人数だけで単純に割り振るのではなく、それぞれの状況を確認しましょう。
- 親の介護度や必要な支援
- 親本人が希望する暮らし方
- 家族それぞれの居住地や移動時間
- 仕事や子育て、健康状態
- 親の収入や預貯金、介護に使える費用
- 利用できる介護保険サービス
一見すると同じように介護できそうでも、仕事や育児、持病など、外からはわかりにくい事情を抱えていることがあります。
「兄弟だから同じ量を負担する」ことだけにこだわらず、それぞれが無理なく続けられる分担を考えることが重要です。
実際に誰が介護している?最新データから見る現状
厚生労働省の「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」では、在宅の要介護者等の主な介護者のうち、要介護者等と同居している人は46.1%でした。同居の主な介護者では「配偶者」が22.5%、「子」が18.2%となっています。
同居の主な介護者の63.5%、別居して介護する家族等の66.9%は女性でした。また、要介護者等と同居の主な介護者がともに65歳以上の割合は61.9%です。
これらの数字は、在宅の要介護者等や主な介護者を対象にした調査の結果です。すべての介護家庭に当てはまるものではありませんが、介護を担う人が同居家族や女性に偏る傾向を考える参考になります。
働きながら介護する人も少なくない
総務省の「2022年 就業構造基本調査」では、介護をしている人は約629万人で、そのうち仕事をしている人は約365万人でした。
介護をしている人に占める有業者の割合は58.0%で、約6割が仕事と介護を両立していることになります。
介護の負担がひとりに集中すると、遅刻や欠勤が増えたり、働き方の変更や離職を考えざるを得なくなったりすることがあります。
家族で役割を分担するとともに、介護保険サービスや勤務先の介護休業・介護休暇などを早めに確認しておくことが大切です。
家族で揉めないための話し合いのコツ5つ
話し合いでは、最初から「誰がどれだけ負担するか」を決めようとせず、今必要な支援と、それぞれができることを整理するところから始めましょう。
親のことで、今必要なことを一度みんなで整理したいです。私は毎週の通院付き添いは難しいけれど、病院の予約や書類の手続きなら担当できます。近くにいる人に負担が偏らないように、できることを分けて考えませんか。
家族それぞれに、できることと難しいことがあります。「できない理由」を責めるより、代わりにできる役割や、介護サービスに任せられることを一緒に探してみましょう。
1.親が元気なうちに話し合う
介護が必要になってからでは、親の希望を十分に聞けなかったり、家族が急いで判断しなければならなかったりします。
まだ介護は必要ないと思える時期から、将来どのように暮らしたいのか、家族にどのような支援を望んでいるのかを少しずつ確認しておきましょう。
例えば、「できるだけ自宅で暮らしたいか」「どのような支援なら受け入れやすいか」「緊急時に誰へ連絡してほしいか」などを聞いておくと、家族で支援方法を考えるときの参考になります。希望を聞いたうえで、実現できる方法を一緒に考えていきましょう。
2.介護に必要なことを具体的に書き出す
「誰が介護するのか」だけを話し合うと、ひとりがすべてを引き受けるような形になりがちです。
通院の付き添い、買い物、ケアマネジャーとの連絡、書類の提出、費用の管理など、必要な支援を具体的に書き出してから分担しましょう。
3.介護にかかるお金も共有する
介護費用の負担方法に、すべての家庭に当てはまる一律の分担基準があるわけではありません。親本人の収入や資産、利用するサービスの費用、家族それぞれの経済状況を確認したうえで、無理なく続けられる方法を話し合いましょう。
親本人のお金を管理・使用する場合は、本人の意思や必要な手続きを確認し、何にいくら使ったかを記録して家族で共有しておくと安心です。
4.一度決めた分担も定期的に見直す
親の状態や家族の生活は変化します。最初に決めた役割を、そのまま続けられるとは限りません。
介護度が変わったとき、入退院があったとき、家族の仕事や健康状態が変化したときなどに、分担や利用するサービスを見直しましょう。
5.家族だけで決められないときは第三者へ相談する
家族だけで話し合うと、過去の関係や感情が持ち込まれ、話が進まないことがあります。
そのようなときは、地域包括支援センターや担当のケアマネジャーに、親に必要な支援や利用できるサービスについて相談できます。家族の話し合いに同席できるかは、窓口や担当者によって異なるため、相談時に確認しましょう。
家族だけで介護を抱え込まない
親の介護は、家族だけで完結させなければならないものではありません。
「家族だから自分が頑張らなければ」と無理を続けると、介護する人の心身が疲弊し、親子ともに生活を維持できなくなるおそれがあります。
親に介護が必要かもしれないと感じたら、まず地域包括支援センターへ相談できます。すでに要介護認定を受けている場合は、担当のケアマネジャーに現在の困り事を伝えましょう。
介護保険では、訪問介護、デイサービス、ショートステイ、福祉用具の貸与など、本人や家族の生活を支えるさまざまなサービスを利用できます。
家族の役割を決めるときは、「誰が介護するのか」だけでなく、「どの部分を介護サービスに任せるのか」も一緒に考えることが大切です。
仕事を辞める前に勤務先の制度を確認する
介護が始まっても、すぐに仕事を辞める必要はありません。まずは勤務先の人事・労務担当者へ相談し、利用できる制度を確認しましょう。
介護と仕事の両立を支える制度には、介護休業、介護休暇、残業の免除、時間外労働や深夜業の制限、短時間勤務などがあります。
介護休業は、自分が長期間にわたって直接介護をするためだけの制度ではありません。介護サービスの手配や家族内の役割分担など、仕事と介護を両立できる体制を整える期間として活用することが想定されています。
介護離職をすると、収入が減るだけでなく、再就職が難しくなる場合もあります。退職を決める前に、勤務先、地域包括支援センター、ケアマネジャーなどへ相談してください。
まとめ|親の介護は家族と専門職で分担しよう
親の介護は、長男や長女、同居している子どもなど、特定のひとりがすべてを背負わなければならないものではありません。
介護には、日常生活の支援だけでなく、通院の付き添い、手続き、費用の管理、介護事業所との連絡、遠距離からの見守りなど、さまざまな役割があります。
それぞれの居住地、仕事、健康状態、経済状況などを確認し、無理なく続けられる形で分担しましょう。一度決めた役割も、親や家族の状況に合わせて見直すことが大切です。
また、介護は家族だけで抱え込まず、地域包括支援センター、ケアマネジャー、介護保険サービスなどの力を借りることができます。
「誰が介護するのか」で責任を押し付け合うのではなく、「家族と専門職でどのように支えるか」という視点で、まずは話し合うことから始めてみましょう。
参考情報
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